さざなみの声


 不倫の二人には純粋な愛情は存在しないのだろうか? 結婚してから本当に愛すべき相手に出会う可能性はないのだろうか?

 啓祐を愛してはいけないと思えば思うほど離れられない。私のすべてを知っている愛しい男に愛される至福の時。男の優しさをニセモノだと思いたくない。私だけは違うと信じたい。

 バカな女。私のことだ。こういう女を一番軽蔑してた。本当は分かっているのに……。

 そして翌朝、またどうしようもない自己嫌悪に陥る。奥さまを愛してはいない。もう男と女ではない。その言葉に縋り付いてる。やっぱりバカな女だ。私は……。

 昨夜
「暫く忙しくなるから会えなくなると思うけど心配しないで待っていてくれるね」
 と言われた。

 心配って何? 何の心配? 待っている事には、もう慣れているけれど、それでどうなるの? 

 どうにもならない。何も起こらない。奇跡なんて有る訳ない。私がそんな事を考え始めていることにも気付かない。

 啓祐はずっとこのまま私と付き合っていくつもりなの? 都合の良い女。呼び出せばいつでも抱ける従順な女。そんな女になりたかった訳じゃないのに……。

 何してるんだろう私は。一人で東京に来て、もうすぐ七年。どこかのアパレル会社でデザイナーとして仕事をしている筈だった。夢はどこまで行っても夢なんだろうか?

 私から離れよう。きっとそれが良いんだと思い始めていた。啓祐のためにも私のためにも……。
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