さざなみの声
家族


 その夜は母がお得意の名古屋コーチンの水炊きを作ってくれて温かい鍋をみんなで囲んだ。こんな賑やかな食卓は父と母には久しぶりなんだろうなと思うと申し訳ない気持ちとシュウと必ず幸せになろうという想いで正直、複雑な心境だった。

 食事が済んで母と二人で並んでキッチンに立ち、話しながら賑やかに後片付け。シュウは居間でお茶を飲みながら父と何か話しているようだ。片付け終わって居間でゆっくりして時間は、あっという間に過ぎていく。

 シュウには先にお風呂に入って貰った。朝早くからの運転で疲れてもいるだろうし早めに休んで貰おうと私の部屋の一つ隣りの部屋に布団を敷いてくれていた。昔、従姉妹たちが泊まりに来たりすると使う部屋だった。布団を並べて敷いて、みんなで遊びながら眠った部屋。

「では、お先に休ませてもらいます」
 シュウは両親にそう言って私が部屋に案内した。襖を開けると布団が二組並べて敷いてあった。

「えっ?」
 シュウと私は驚いて顔を見合わせた。

「もう、お母さんったら気を遣い過ぎよ」

「さぁ寝よう寝よう……」
 と腕を引っ張られてシュウは襖を閉めた。

「えっ? シュウ?」

 湯上りの石鹸の香りのシュウに抱きしめられた。
「そういえば、きょうは、まだだった」
 おでこにキスされた。

「お父さんとお母さんのところへ行っておいで。本来なら何ヶ月もかけて順序立ててしなければいけない事なのに、たった一日しかなくて。話したい事もたくさんあるだろう? ごめんな、寧々。ちゃんと娘としての役割を果たして来ないとな」

「うん。ありがとう。温かくして休んでね」

「部屋も暖かいし布団もふわふわであったかそうだ。おやすみ」

「うん。おやすみ」

 私は部屋を出て居間へと向かった。



「シュウさん疲れているわよね。慣れない所で休めるかしら?」

「そんな柔な奴じゃないわよ。もう今頃眠ってるんじゃない?」

「そうか。男はそれ位じゃないとな」と父。

「寧々、何か手伝う事ないか? 父さん日曜日なら手伝いに行ってやれるぞ」

「うん。ありがとう。持って行かない物はここに送らせてもらうし、持って行くのは夏物だから嵩張らないしトランクに入るだけ持って行く。後は向こうで現地調達で何とかなるだろうし心配しないで」

「そうか。とにかく時間がないから式や披露宴は出来そうもないな」

「お父さん、寧々の結婚式をずっと楽しみにしてたのにね」

「母さん、そんな事ないよ。形式だけ整えたって上手くいかない事もある。要は寧々が幸せなら父さんは何も言うことはないよ」

「うん。私、幸せだから心配しないで。ちゃんとやって行けると思うから」

「そうか」
 父の笑顔が寂しそうに見えたのは考え過ぎじゃないんだと思った。

「じゃあ、父さんはそろそろ風呂に入って寝るとするかな」
 と出て行った。
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