虚愛コレクション


神楽君は、彼と会っていた事を言及しない。言及すべきではなくとも、咎められてもおかしくはないのに、何も言わない。

優しいのか、優しくないのかよく分からないけれどもう終わった事ではあるのだ。

ちゃんと、大人にならないといけない。向き合って現実を見れるような大人に。

こんな情けない子供の私から脱却する為に、中途半端な事をしてはいけない。

既に夢は見終わったのだ。


「もう、神楽君にとって家族に対する心配事はないだろうから、私の事は気に掛けなくたって大丈夫だよ。ちゃんと私だって黙ってる。千代は……千代とは友達辞めるって一方的に言うのも難しい事だけど、ちょっとだけ距離置けたらなって思ってる」


そんな宣言をして、私なりの償いをみせる。

これだって独りよがりの自己満足だろうけれど、そうしないと私の気が済まない。

持ち過ぎたこの感情を一つづつ手放して、正しい物を選んでいかなければいかない。


「……そんな事しなくてもいいよ。そんな事しなくてもいいから、祈ちゃんの思ってる事全部聞かせてよ。さっき、言いかけた事も含めてさ」


なのに神楽君はそう言って、私の宣言を払いのける。

それこそが償いかのように。いや、違う。これは神楽君の優しさなのだ。

私を気に掛けてくれていたのは、全部が全部千代だけの為じゃなかったのだ。

ハッキリと口にはしなかったけれど、私の為だって含まれていたのかもしれない。いつだって、現実を突き付けては私の目を覚まそうとしていた。けれど。


「……そんな事したら、私同じ事繰り返しちゃう。それに、さっきまで透佳さんと一緒にいたのに都合が良すぎるでしょ?」


自身を嘲笑って見せて立ち上がる。宣言すべき事は宣言した。

私はもう、誰かの優しさを利用すべきではない。寄りかかっていいわけでもないのだ。

それでも、神楽君は私の手を掴んで引き止めた。


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