虚愛コレクション


通話を切って、ポケットに携帯を押し込んで立ち上がれば、丁度神楽君は防波堤の上に戻ってきたところだった。


「神楽君それ……」


そんなに大事な物だったのかと言う意味で問いかけようとすれば、私を敵対視するように、いーっと何処か子供染みたように歯を見せた。


「シスコンだから言わねぇ」

「ああ」


なるほどまた千代の事か、と納得を見せれば“ほらね”と言いたげなムッとした表情を見せる。

そうは言っても、そう感じるのも仕方ない事だ。

これ以上言及される事を望まないのであれば、先の話の続きをしなければいけない。この宣言だけはちゃんとしておきたいのだ。

そうしておけば、人の情に必要以上に付け込む事もなくなる。


「あのね、さっきの話の続き……」

「私の事が嫌になったらってやつ?」

「そう」

「それなら大丈夫だよ。もう既に嫌だから」

「は?」


満面の笑顔で、嫌な感情を渡されて思わず素に返答してしまう。

勝手だけれどこれだけ厚意的な行動をしてくれているのだから、そんな答えが返って来るとは思わなかったのだ。


「あっはは!ほんっとそっちだって顔に出やすくなってんね!!」


私が顔に出やすくなったと言うのなら、神楽君だって随分私に遠慮などなくなったものだ。

タタッと私の横を走り抜けたと思えば、此方に振り返って言う。


「人間なんだから一つや二つ嫌なの当たり前じゃん!それを含めて好きだって言ってたんだよ!」

「……っ、」

「でもそうだなぁ……祈ちゃんとはちゃんと関係性付けた方がいいかもな」


うん、と神楽君は大きく頷いて、高らかに恥ずかしくなるような言葉を発した。


「“共犯者”!」

「なに、それ」


ははっ、と笑って見せたけれど何故か視界が滲んでしまう。


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