雨宿り〜大きな傘を君に〜
「先生に気持ちを伝えられて、すっきりしました。……突然、あんなことをしてごめんなさい」
自分が大胆な行動に出るとは思いもしなかった。女性から迫るなんて、はしたないとすら思っていたのに。
「いや、俺も嬉しかったよ」
はい?嬉しかった?
さらりと答えた先生を凝視する。
「そんなこと言うと、また、しますよ?」
強気で挑発してみたけれど、できるはずがない。
先生の唇を見る度に、想像してしまう。
「大歓迎だよ…なんてね」
笑顔で応える先生の気持ちが分からない。
やっぱり菱川先生にとっては取るに足りないことなんだ。
「帰ります!」
伝票を持って立ち上がる。
これ以上、先生のペースに流されてやるもんか。
「寄りたいところがあるって言ってたけど…?」
「もういいです!勉強もあるので、帰ります」
「そっか、それじゃぁまたのお休みに行こう」
次もあることを示唆する言葉を、先生はいつまで言ってくれるのだろう。
今はまだ未成年だから気にかけてくれているのかもしれないけれど、成人したら、社会人になったらーー先生との距離は少しずつ開いていくのかな。
いつまでも先生を頼りにしていられないことを分かっているからこそ、
未来は、いらない。
そう思ってしまった。
菱川先生と居られる"今"をずっと生きていたい。
そんな馬鹿げた考えを打ち消して、一足先に外に出た。