雨宿り〜大きな傘を君に〜

塾を休むこと自体初めてのことだ。
やってしまったな…。


崎島と別れた後、真っ直ぐに家に帰った。



「早いな」


リビングで新聞を読んでいた緒方さんに迎えられる。


「…うたた寝して、塾に行けませんでした」


我ながら情けない理由だ。
久しぶりに身体を動かしたことと、寝不足だったことが原因だろう。


「なんだそれ」


緒方さんは缶ビールを飲みながら首を傾げた。


「疲れてるんだろ、今夜は早く寝ろ」


「はい」


「元気ないよな。なんかあった?」


新聞から少しも目線を上げてくれていないのに、緒方さんは言った。


「托人のプレゼントのことでまだ迷ってるのか」


「まぁ…それもあります」


「高校生に高価なものを贈られても迷惑なだけだ。友達に渡すようなものでいいんだよ」


缶ビールを左右に振り、目配される。
お代わりの合図だろう。
冷蔵庫の定位置から冷えたビールを取り出す。


「それが難しいのですよ」


「色々あるだろう。俺は酒でいいよ」


「…先生はお酒、ほとんど飲まれませんよ。緒方さんの誕生日はいつですか?」


「さぁな」


私からビールを奪うと、プルダブを開けて一気に煽った。


< 159 / 221 >

この作品をシェア

pagetop