終わりにした夫婦

···豪①


豪・・・

携帯を持ってから初めて
  父親から連絡があった。

お母さん・・・

直ぐに菫と柊に連絡を入れた。

菫は近所だから
「家に行くね。」と、ラインが来た。
柊からは、研究中で後で連絡すると
ラインがきていた。

俺達兄弟は、母さんの育て方か
兄弟三人仲が良い。

連絡も良く取り合っている。

俺の嫁と菫は仲良しだし
菫の旦那と俺は飲み友達だ。

菫がやって来て
「お義姉さん、お邪魔します。」
「菫ちゃん、お疲れ様。リビングよ。」
「はぁ~い」
リビングに入ってきて
「兄さん?お父さんから連絡きたの?」
「ああ。」
「初めてじゃない?
    私なんか声も覚えてないわ。」
「俺もびっくりしたけど。
さすがに声に覇気はなかったな。」
「それにしても、今なんだ?
それまでは、気づきもしてないんだ。」
「そうみたいだな。」

そう。
俺達は母さんが、
昨日あの家を出ることは知っていた。

荷物も、ふた月前 位から運びだしていた。
大きなものは、昨日業者が運んだはず。

三ヶ月位前に、
母さんから
話したい事があると
三人に連絡があった。

三人が休みの日に
母さんのいる家に集まった。

そこで・・・母さんは、
『豪も菫も幸せな家庭を持って
柊も就職が決まって
母さん 本当に嬉しいの。   
それで、お母さん
ずっと考えていた事を
実行しようと思って。』
と、言った。

それは、俺達が自分達の力で
生活ができるようになったら
一人でのんびりすること。

今まで、子供である俺達と
過ごす事だけが
生き甲斐だったと言う 母さん。

「三人が自分達で生活できたら
私は、自分だけの道を進んで行こうと
決めていたの。
夫であるあの人は、
私が居ても、いなくても
まったく関知していないし
今更、二人の生活なんてできない。
あの人は、今までずっと
自由にやってきたのだから
私だって自由に生きようとね。」
と、言った。

本当に、母さんはずっと俺達三人の為に
毎日、毎日、頑張ってくれた。
自分の体調が悪い日も俺達の事を優先して
旅行や遊びとか息抜きとか
自分の為に
時間をとるなんて事・・
    一度もなかった。

母さんが俺達の母さんで
なくなるわけではない。
そうわかっていても三人は
寂しさをぬぐえなくて
菫は泣き出した。

だが、柊が
「残りの人生で申し訳ないけど
母さんの好きな様に生きて欲しい。
だけど、俺達の母さんなんだから
ちゃんと連絡してよ。」
と、言った。

母さんは、
「当たり前よ、
だけど、柊ありがとう。
豪も菫も・・ありがとう。」
と、言った。

俺も菫も良いとこを柊に
取られてしまったが
二人とも柊の意見と同じだった。

「それで母さんは、今からどうするの?」
と、菫が聞くと
「もうずっと計画は立てていて
弁護士の先生とも相談して
次に住むとこも仕事先も
決めているの。
まだ、働けるし働いてみたいから。」
と、はつらつとした顔で話す母
「「「へぇー。嘘っ。びっくり。」」」
母さんは、荷物は少しずつ運び出して
父が定年の日に
家は出ると決めていた。

母さんは自分の両親に買ってもらった
家具は自分の手で処分したいと言って
手配もしていた。

今度入るマンションは、
クローゼットが付いていて
「もう必要ないけど、
どうしてもあの家に
置いていきたくないから」
と、言っていた。
「どうせ、私の荷物が減っていても
あの人は気づくことはないし
私がいなくなっても、気づかないわよ。」
と、笑いながら言う

その笑いは、本当に楽しんでいるようで
夫である父に愛情や未練は、
まったく無いように感じた。
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