リライト
リライト

「うぅ…」

経たり込んだなら最後、と言わんばかりにすっかり動き出すことが出来ずに階段の一段目の端に座り込んだ。恥ずかしながらも溢れ出る涙を止めることも出来ない。
ただ嗚咽を漏らしながらつい先程の思いがけない失恋とに心を痛めひとり嘆いていた。

夕暮れの空、橙色に染め上がる世界。
その中に一寸の暗闇に紛れ自社ビルの奥まった、ひっそりと存在している古びた非常扉の向こう側、取っ手がすっかり錆びてしまっているのに手入れされていない非常階段。
あまりに古くてうっすらカビの匂いがするような気がする、そんな陰惨な場所。
だからこそ誰もうす気味悪がって近付かないのをいいことに、ひとりになりたくなった時にこっそりとあたしの〝秘密の花園〟的な気持ちでそこを訪れては心を落ち着かせていた。
覆っていた顔を上げて涙を拭っても後から後へと零れ落ちる落ちる透明な雫、止めようにも止めどなく溢れてしまうんだから致し方ない。
胸(こころ)だってどうしようもないくらい痛くて仕方ない。
誰もいないことをいいことに、涙が枯れ果てるくらい泣いてやろうと恥ずかしげもなく、ただただ子どものよう地団駄を踏み声をあげる。
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