Short stories
「麻衣」

会いたくなかったから出かけたのに……。

この偶然に私はこのまま聞こえないふりをしようと決めて、振り返らず歩みを速めた。

「麻衣、待てよ」
ついに手を握られもう知らないふりが出来る訳もなく、私は覚悟を決めて振り返った。


「あれ?偶然だね。こうちゃん」
にこりと笑顔を向けた私をみて、こうちゃんはかなり訝し気な表情をした後大きくため息をついた。

「聞こえていただろ?」

「ごめんね、考え事してたから」
もちろん聞こえていたが、そんな事を言えるわけもなく無邪気なふりをした。
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