彼・・・私の天使。

3


 気が付いたら真っ暗な部屋。何時だろう。バッグから携帯を取り出す。もう十時を過ぎてる。何時間こうしていたのか……。
 部屋の灯りを点けてカーテンを閉めた。

 静かな部屋に携帯の着信音。天使からだ。気持ちを切り替えて元気な声で出なきゃ……。

「はい」

「僕です。バイト終わりました。今、何してたんですか?」

「何って……」

 玄関のチャイムの音。

「あっ、ちょっと待って、誰か来たみたい。はい」

「僕です。瞬です」

「えっ?」

 ドアを開けると天使が立っていた。

「どうしたの? 今、携帯で喋ってたのに」

「マンションの下から掛けたんです。入ってもいいですか?」

「あっ、ごめんなさい。驚いちゃって」

 ドアが閉まると天使は私を優しく抱きしめた。

「なんだか、あなたが泣いてるような気がして、気になって来ちゃいました」

「私が? そんな訳ないでしょう」

「それならいいんです。僕の思い過ごしなら、それで」

 天使……。
 私が彼のことをそう思ったのは間違いじゃなかったのかもしれない。
 どうして分かるんだろう、私の思ってることが。泣きたい気持ちで何時間も座っていたこと……。

 本当に私を癒すために現れた天使なの?

「じゃあ、僕、帰ります。もう遅いし」

「今、お腹、鳴らなかった?」

「きょう忙しくて、バイトの途中で食べてる時間なかったんです」

「何か作ろうか?」

 そういえば私も夕飯食べてなかった。

「すぐ作るから、食べてから帰ればいいでしょう? 座って待ってて。何があったかな?」

 冷蔵庫を開けて

「パスタでいい?」

「はい。大好きです」

 きのこと青菜のクリームパスタを作り

「出来たわよ。はい、どうぞ」

「いただきます。……美味しい。料理も出来るんですね」

「出来ないと思ってたの? 酷い」

「エプロン、すごく似合ってます。惚れ直しました。…………いつか、まだいつになるか分からないくらい先かもしれないけど、僕の傍に居てくれますか? 必ず一人前の役者になって、あなたを迎えに来るから」

「あんまり待たせると私、おばさんどころか、おばあちゃんになっちゃうわよ」

「大丈夫です。その頃には僕もおじさんになってるから。これから劇団とバイトで忙しくなって、こんなふうに会える時間も少なくなるかもしれないけど」

「どこにも行かないから。ずっとここにいるから。私のことなんか気にしないで頑張ってね」

「詩織さんを想いながら、頑張ります」

 それから彼は本当に毎日忙しくて、メールをくれたり、夜遅く携帯で話したり、そんな時間しかとれなくなった。天使も頑張っているんだから、私も仕事、頑張ろう。
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