彼・・・私の天使。
詩織の部屋のカギ

1


 翌朝。二人ともお休みで目覚ましもかけず、外も七時近くまで明るくならなくて、彼は疲れもあっただろうし私は熱もあったから、ようやく目覚めた時には、かなり遅い時間だった。

 彼の腕の中で、天使の寝顔を見ていた。私が起き出してしまうと、せっかく良く眠っている天使を起こしそうで少しでも体を休めて欲しかったから、そのまま動けずに居た。まだ薬が効いていたようで、私はまた眠ってしまった。

 次に目覚めた時には天使が起きていて

「大丈夫ですか? 熱、ずいぶん下がったみたいです。昨夜は、あなたの体すごく熱かったから」

「昨夜よりは楽になった気がするけど……」

「昨日は何も食べてないんでしょう?」

「食欲なかったし」

「じゃあ、きょうは僕が作ります。こう見えても一人暮らし暦十年ですからね」

「十年? 九年じゃないの?」

「あぁ、今月の二十日に誕生日が来ると二十八歳ですから」

「一月二十日が誕生日なの? 水瓶座?」

「はい。それが?」

「私も一月二十日が誕生日なんだけど……」

「えっ? そうなんですか? 誕生日、同じなんだ。知らなかった」

 高校生カップルじゃあるまいし今頃何言ってんだろ。まだまだ知らないこと、たくさんあるんでしょうね。
 知りたくないことも、言えないことも……。


「こういう時は、おかゆかな?」 

「出来るの?」

「信用ないんだなぁ」 

「じゃあ、作ってみて」

 キッチンに行ったと思ったら

「土鍋、どこですか?」

「シンクの下の扉を開けると入ってるわよ」

「はい」

 また戻って来て

「お米どこですか?」

「お米から作ってると時間かかるからジャーのご飯をザルで洗って、ほぐして使うと早いわよ」

「はい。あの火加減は?」

 コントじゃないんだから、もう可笑しくて……。
「私が作るから」
 キッチンまで行って、だしを取って塩味に、ちょっとお醤油、ちりめんじゃこ、ねぎ、卵でとじて

「はい。出来たわよ」

「うん。美味しい」

「白いおかゆよりいいでしょう? お腹こわしてる訳じゃないんだから」

「料理じゃ、敵わないなぁ」

「キャリアが違うもの」

「食べたら、もう少し休んだ方がいいですよ。薬も飲んで」

「そうね。そうする。明日から仕事だしね。劇団はまだお休みなの?」

「明日まで休みです。バイトも明日からは夜だけになるし。後片付けは僕がしますから。その後ちょっと出てきます。ゆっくり休んでてくださいね」
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