彼・・・私の天使。


 なのに一年経った頃、帰国してる筈なのに連絡がない。メールしても忙しいからと会えずに帰って行ってしまうようになった。

 上海からのメールも前は一日に何回も来ていたのに私からのメールの返事しか来なくなり、そして返事すら来なくなった。

 どうしたらいいのか分からなかった。私が何か気に障る事をしたんだろうか? 考えても考えても分からない。混乱していた。すぐにでも上海へ行って話がしたかった。


 数日後、彼の両親が婚約破棄を告げに来た。

「申し訳ない。お嬢さんは何も悪くない。家のバカ息子を許してもらえるとは思わないが、とにかく謝りたくて」

 何度も頭を下げられた。私は理由が知りたかった。ご両親は申し訳なさそうに、やっと話してくれた。

 上海の日本に留学経験もある日本語堪能な秘書と親密になって赤ちゃんが……。

 自分の耳を疑った……。

 それからの数ヶ月、どうやって生きていたのか記憶がない。
 人間、忘れてしまいたい事は忘れられるらしい。自己防衛本能なんだろうか。自分が壊れてしまわないように、心が壊れてしまわないように……。


 それから、その人とは会ってはいない。上海で結婚したらしいと噂に聞いた。もう私には終わったこと。今は思い出すことさえなくなった。安っぽいメロドラマのヒロインになんて絶対にならない。

 毎日する事が無くなった私は働き始めた。仕事を手伝って欲しいと父に言われたけれど、何の繋がりも無い私を知らない所で、やり直したかった。

 求人案内を見て面接に行った司法書士事務所。
 ボスは女性で、とても輝いて見えた。仕事の出来る有能で聡明な尊敬出来る人だった。

 女性である事は仕事をする上でマイナスじゃない。そう教えてくれた人、とてもパワフルな人、でも女性らしい気遣いを忘れない人。

 今、私が父の事業を続けていられるのは彼女から教えられた事の数々が、少しでも身についたお陰だと感謝している。
 今はレストランの大事なお客様になってくれている。



 そして、きょうも私は仕事をしていた。二店舗を回るのは当然のこと。それ以外にも、お得意様へのご挨拶、新たな顧客を得るべく営業。

 最近はレストラン・ウェディングも一般的になり仕事が増えた。幸せそうな二人を見ていると仕事だという事も忘れそうなくらい、こちらも幸せな気持ちになる。末永く、お幸せにと祈らずにはいられない。

 結婚記念日に、お二人で食事に来てくださるお客様も多く、大変だけれど、この仕事は止められない。
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