月之丞の蔵
……雪さんの、裏切り。何があったんだろう? 

「月之丞……嫌だったら答えなくていいけど、最初に会った時、裏切ったって言ってたよね? その……雪さんと、何があったの?」

月之丞は立ち止まり、振り返った。その目は一瞬私を見て、すぐに逸らされた。

「知りたいか……?」

「……聞いていいのなら、知りたい」

月之丞は大きく息を吐き出した。そして私を見上げるようにして見る。

「……元々、許されぬ恋だったのだ」

やっぱり。ロミオとジュリエットだ。

「だが俺は、真剣だった。家が許さぬというのなら、雪を連れて逃げることも考えた。だが、雪の肺の病が、俺にそれを躊躇させていたのだ」

月之丞は深く息をつくと、再び歩きだす。

「ある夜、いつものように蔵の地下に行き、雪を待った。だがなかなか現れない。そのまま夜は更け、朝日が蔵に差し込んだ。雪は病が重くて出られない時は必ず文を置いていたが、それもなかった。そのまま三日ほど、俺は毎晩あの蔵で待ったが、雪は現れなかった」

月之丞は宙を見つめている。ずっと昔に、そうして雪さんのことを待っていたように。

「もしや、それほど病が重いのか。そう思った俺は、危険を冒して夜中に母屋へ忍び込んだ。そして雪の部屋へ入ろうとしたところを、庄屋の手勢に捕らえられたのだ」

いつの間にか日が暮れ、西の空が赤く染まっていた。月之丞は赤い色を瞳に映して、じっと睨んでいる。

「庄屋は言った。雪はお前に見切りをつけて、江戸へ嫁に行った。お前とは会いたくもないそうだ、潔く身を引け、と」

私たちは蔵の前まで来ていた。

「信じられなかったよ。前日まで何のそぶりもなかった。俺はずっと待った。蔵の中で。だが……雪は二度と現れなかった」

 そこまで言うと、月之丞は顔を背け、蔵の中へと入って行った。私はそっと扉を閉めると、母屋へと戻った。
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