強気なサッカー選手の幼馴染みが、溺愛彼氏になりました
「………いや。」
「何でだよ。別に何にもしない。俺がおまえが困るようなことするはずないだろ。」
「違う。そうじゃなくて……。」
昨日の女の人が乗っていた場所。
あの人が、秋文とどんな関係があるのかわからない。けれど、同じ場所に座ったら、同じ関係になってしまいそうに感じたのだ。
秋文は真面目な人だ。きっと、あの女の人は彼女ではないはずだ。千春に告白したのに、別の女性と付き合う人ではないとわかっていた。
じゃあ、何故二人きりになったの。仕事の関係ではなかった。女の人の化粧はとても派手で服装も見た限り胸元が大きく空いていたのでそう感じられた。
遊びの関係なのか、友達なのか。
本人に聞けばいいのに聞けない。
……何に怖がっているのかも、千春はわからなかった。
「助手席に乗りたくない。」
「………お前の、乗ったことあるだろ。今さら何言ってだ。」
「…………そうなんだけど。」
「いいから、早く乗れって。目立つだろ。」
そう言って、秋文は千春の腕を掴んで助手席に座らせた。
座った瞬間に甘い香りがしたように、千春は感じられて顔を歪めた。
「おまえ、夕飯は?」
「………今は食べたくない。」
「わかった。とりあえず、移動するぞ。」
そう言うと、秋文は車を発車させた。
彼の運転はいつも優しい。車に酔いやすい千春も、秋文の運転だと酔う事はほとんどなかった。
それなのに、今日は気分が悪い。
早くこの場所からいなくなりたくて、千春は目をキュッと閉じた。
「………おまえ、俺と一緒にいるの、そんなに嫌か?」
「秋文………。」
信号で車が止まる。
秋文の言葉を聞いて、千春はハッとして彼の方を見ると、彼はとても悲しそうな顔をして千春を見つめていた。
千春は、彼のそんな顔を見たことがなかった。そして、その原因が自分にある事がわかっているのに、上手く話が出来なかった。
これは、告白を断るチャンスなのかもしれない。そんな風に思っているのに、言葉が出なかった。
そのうちに、信号が変わり秋文はまた、まっすぐと前を見て運転を再開した。
千春は、目的地に着くまでに秋文の告白の返事を決めなければ、と必死に考えていた。
考える時点で答えは決まっていたはずなのに。
どうして、まだ悩むのか。
千春は、自分の気持ちに向き合えずにいた。