強気なサッカー選手の幼馴染みが、溺愛彼氏になりました



 そして、鍵をもって秋文に差し出す。
 車の中で、何かの光を反射させてキラキラ輝く千春の部屋の鍵。
 
 それを受け取ろうと手を伸ばした瞬間。
 その鍵は、出の手の中に戻っていった。
 驚き、出の顔を見てしまう。出の瞳は鋭く光り、秋文を睨むように見ていた。


 「千春を泣かせるなら、俺があいつを貰うよ。」
 「………おまえ、何言って……。」
 「千春は俺になついてくれてるし、相談もしてくれる。可愛い女にそんな事をされたら、俺だって嬉しいからな。千春はいい女だろ?」
 「出、おまえ本気で言ってんのか?」


 秋文が動揺したまま、出を見つめるが彼からの返事はない。
 腕を伸ばしたままだった秋文の手のひらに、千春の鍵を落とす。車内にチャリンッという金属音が響いたら。
 自分の元に、千春が戻ってきたような気がして、秋文はホッとして冷たい鍵を手で握った。
 これを、出には渡したくないと強く思いながら。


 「何も言わないで待っている事が、どんなに辛いか。おまえが1番わかってるんじゃなかったのか?」

 
 出の言葉を聞いて、目を大きくする。その言葉は、ズッシリと出の心に響いた。


 千春が好きだと隠し続けた10年は、決して楽な時間ではなかった。千春に伝えたくて、伝えられない。そして、新しい彼氏が出来る度に、どうしようもなく落ち込んで、手の届かない所に千春が行ってしまう事に怯えながら過ごしていた。
 俺の気持ちに気づいてくれないのか。どうして、こっちを見てくれないのか。そんな事を考えて、千春を見守ってきたはずだった。

 あんな想いを千春にさせていたのか。
 気づくと、自分がしてきた事があまりに酷い事だったとわかったのだ。

 
 気づくと、出は車から出て行ってしまった。


 「悪い……今度、礼はするから。」



 親友のキツイ言葉に感謝しながら、秋文は千春の鍵を握りしめたまま、車を前へと動かした。




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