先生と17歳のあいだ
2: 麗らかな春と青いたばこ
*
いつの間にかカレンダーが五月になっていた。
先日は中間試験があり、テスト勉強はさほどしてなかったけれど全科目の平均点ぐらいら取れていると思う。
テストが終わって完全にだらけている生徒たちは口を開けば恋愛か下ネタか〝この人〟の話題ばかり。
「なあ、連絡先教えてよ」
非常階段の手すりに寄りかかって郁巳先生はいつもようにタバコを吸っていた。
先生のタバコは青いパッケージ。タバコって匂いがきついイメージがあったけど、最近は鼻が慣れてしまったのか不快感はない。
「どうしてですか?」
私は今日も自分で作ったお弁当を膝の上で食べていた。
「クラスメイトの中で知らないのお前だけなんだよ。なんかあった時に困るだろ」
先生はふう、と煙を遠くに向かって吐く。
まだ半分も短くなっていないタバコを口に咥えたまま、先生はポケットからスマホを取り出した。
カバーもなにもしていない買った状態のスマホ。咥えタバコをしてスマホを触っている姿を見ると、本当に先生が教師だということを忘れてしまいそうになる。
「別になんにもないですよ」
「バカ。変質者は春に増えるって知らねーの?」
先生のタバコの火がじりじりと灰に変わっていく。
先生のスマホは私よりも小さくて薄い。でもその中に登録されている繋がりは、私より遥かに広くて多いことは聞かなくても分かる。
私のスマホに入ってる人なんて、両親と遠方に住んでるおじいちゃんとおばあちゃんとたまに利用するデリバリーのお店ぐらい。
こんなに画面の大きなスマホを持っていても、結局私は毎朝のアラームと週間天気予報と星座占いしか使っていない気がする。