好きの代わりにサヨナラを【蒼編】《完》
涙のキス
俺は、また東京行きの夜行バスに乗った。

こうして夜行バスに乗るのは、何度目だろう。

なるべく新幹線は使わずに節約してきたつもりだったが、今回の遠征でオーディションの賞金10万円は全て使い果たしてしまった。

空になった封筒を持っていても仕方ないのに、なんとなく捨てられなくてリュックに入れてきてしまった。



夏休みに、アルバイトでも始めようか。

賞金が底をついても、あいつの活動を応援したいと思っていた。



ほのかと行きたかったスカイツリーに、俺は一人で登った。

あいにくの天気で、それほど景色は楽しめなかった。

それでも記念に、何枚かスマホで写真を撮ってきた。



ほのかは寮の近くの小さな公園を待ち合わせ場所に指定した。

ずいぶん遅い時間だったが、その時間じゃないとリハーサルがあって行けないとあいつは言っていた。



一人で観光する場所もそんなに思いつかず、俺はあいつの寮の周辺を歩いていた。

どんな場所に住んでいるのか気になって、あいつの寮の前を通った。



寮といえば、○○荘といった感じの古い建物を思い浮かべてしまったが、ここは大手芸能事務所がタレントを住まわせる寮だ。

俺がイメージしたのとは違って、見た目は新しいオートロックのマンションのようだった。
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