死にたい君に夏の春を
目撃



中学生最後の夏休みの、8月14日。


ほとんど日が落ちかけて、足元すら見えない18時半頃のこと。


僕は見てしまった。


黒いセーラー服なのに、一際目立つ少女。


暗い道に唯一照らされる街灯の光が、その姿を映し出している。


雪のように白い少女の頬には、赤い絵の具を散りばめたような生々しい血飛沫が垂れていた。


彼女は、もはやどこが目だかわからないくらい顔が真っ赤になった中年男性に股がっている。


そして、僕がいることに気がついた彼女は。


「あ、たかがいくん」


そう言った。


あまりにも急な出来事に声も出なかったが、名指しされたことによって、ふと我に返る。


彼女は長い前髪の隙間から覗かせる真っ黒な目で、僕を見る。


振り向いた時見えたその手には、血だらけのスマートフォンがあった。


「これ?いきなり抱きついてきたから。
仕方なかった」


まるで僕の心を読んだように言った。


彼女は僕を不思議そうに、じっと見つめる。


何か、何か言わなければ。


「し、死んでない?」


とっさに出た言葉。


まずいようなことを言ってしまった気がする。


「まだ息あるよ。多分」


……多分。


これまで不安になる『多分』という言葉を、今までに聞いたことがあるだろうか。
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