死にたい君に夏の春を
「もう、お別れだね」


栞は制服と財布が入った紙袋を持って、立ち上がった。


「あのさ、栞の母親に伝えて欲しいことがあるんだけど」


「ん、何?」


「バッドエンドは嫌いだから、続編、待ってますって言っといて」


「……わかった」


電車はゆっくりと止まる。


「連絡、ちゃんとするから。また、いつか会おう」


「うん、絶対ね」


彼女は手を差し伸べる。


少し躊躇して、僕は握手をした。


優しい笑顔を見せる。


ああ、この笑顔がまた見れただけで、僕は幸せなんだ。


電車が止まって、扉が開く。


「じゃあ、行くね」


その手は、するりと離れていく。


そして彼女は背中を見せて電車に乗る。


行ってしまう。


その背中が、とても寂しく見える。


すると彼女は、振り返る。


「たかがいくん」


そう言って電車を降りてきて、僕の服をつかみ。


「好きだよ」



唇を、重ねた。



一瞬何が起こったのわからなくなって、頭が真っ白になる。


遠くで電車が出発する合図だけが聞こえる。


彼女は重ねた唇を離し。


「ばいばい」


そう言って電車に乗り、同時に扉が閉まる。


窓の奥の栞が手を振りながら、電車は動いていく。


なんだ、これ。


心臓がバクバクして止まらない。


栞、あいつは確信犯だ。


僕をこんなんにさせる、圧倒的犯罪者だ。
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