one Love 〜知らなかった恋する気持ち〜


からかうような意地悪な言い方をし、理玖くんは私に背を向ける。

座り込んだまま動けない私をクスリと笑い、「まぁ頑張って」と吐き捨てた。

ドアに近付くスラリと高い後ろ姿を目に、胸の奥が握り潰されるように締め付けられる。

脳裏に、この間見た理玖くんと柏木さんの映像が蘇った。


待って……。

どうして……?

だって、理玖くんは――。


「――待ってください!」

「……?」


私の上げた声に理玖くんの足が立ち止まる。

振り返った理玖くんは、何の感情も読み取れないような無表情な顔をしていた。

息を呑む。

勇気を出して、こっちを見つめる理玖くんの目を見つめ返した。


「何で……私にこんなことするんですか?」


言った瞬間、部屋の中の時間が止まったような錯覚を覚えた。

そらさず理玖くんを見つめ続ける。

答えを待って息を止めていると、見つめる理玖くんの表情が意味深に微笑んだ。


「何でって……したかったからだけど?」


爽やかスマイルでサラリとそう言い、ドアの向こうへと消えていった。

< 279 / 405 >

この作品をシェア

pagetop