大江戸シンデレラ

そのときである。

黒塀に囲まれた裏木戸の脇の茂みから、がさりと音がした。

其処(そこ)は外からの目隠しも兼ねて、木や草花を植えた前栽となっていた。

「何奴っ」

目にも止まらぬ早さで、広次郎が腰に手挟んだ長刀をすらりと引き抜いた。

庇うように美鶴を背にして、正眼の構えをとる。


「……そいつぁ、おれの方が知りてぇな」

前栽の木立ちの陰に身を屈ませて、こちらの様子を窺っていたのであろう。

男が一人、出てきた。

広次郎が刀の(つか)を握り直し、眼光鋭くその男を睨みつける。


男は紺鼠(こんねず)色の着流しに縞の平袴姿、腰には大小の刀を二本差していた。

さらには、目の覚めるような白足袋(たび)雪駄(せった)履きだった。

しかも、(かしら)は粋な本多(まげ)で、きりりと精悍な面立(おもだ)ちの——

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