それは誰かの願いごと




数日後、広報の仕事で外に出ていたわたしは、戻るのが夕方になった。結局一日がかりになってしまったことに疲労感もあったけれど、充実した仕事内容であったことには達成感もあって、気分的には相殺されていた。

デスクに戻ったら報告書作成と、明日の準備と…ああ、それから、今朝先輩からいただいた出張土産を休憩室の冷蔵庫に入れておいたとメッセージが届いていたから、忘れずに持って帰らないと。報告書にはそんなに時間かからないだろうから、先に休憩室に寄った方がいいかな。

考えすぎる癖も、こんな風に段取りを組むときには役立ってくれるのだ。

デスクに戻る前に休憩室に向かうことにしたわたしは、急ぎ足でエントランスを横切っていた。
そのとき、

「和泉さん?」

背後から、呼び止められたのだ。

急く気持ちを抑えて振り返ると、同期で営業部の白河(しらかわ)さんが外回りから戻るところだった。
数多い同期の中で、白河さんは少し周囲と馴染んでない印象があって、ネガティブでいつも考えすぎるあまり人の輪に入りにくいわたしと、なんとなく似てるような気がしていた。
同類相憐れむというわけではないけれど、確かにそれで興味を持ったのは事実だった。
そんなわけで、配属部署は違ったものの、同期の中では比較的言葉を交わす間柄だった。

休日に一緒に出かけたり、用もないのにメッセージを送るような親しさではなかったけれど、最近、白河さんが営業部の上司である戸倉(とくら)さんと付き合いはじめたときは、噂が広まる前に本人から直接電話で報告をもらったので、白河さんの方も、わたしのことを他の同期よりも親しい位置には感じてくれているのかもしれない。










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