それは誰かの願いごと




―――――和泉さん。和泉さん。


誰かが、わたしを呼んでいた。
男の人の、すごくいい声だ。

耳に馴染みきっているわけではないけれど、聞き覚えのある声で、わたしは、その声がとても好きだと感じた。


―――――和泉さん。


三度目に呼ばれたとき、やっと、その声の主に気が付いた。

つい最近まで彼に名前を呼ばれたことがなかったから、すぐには分からなかったのだ。


―――――二人だけの秘密にしておいてくれないか?


そう言って、諏訪さんがわたしに向かって指先をのばしてきた。
わたしは胸がドクドク騒ぎだして、近付いてくる諏訪さんの気配に、何がなんだか分からないくらい、心がしっちゃかめっちゃかになりそうで、ただただ体が熱くなっていって………
そしてその温もりがわたしの頬にふれようとしたその瞬間。


視界を焼きつくすような眩しい光と、


キキキキキ―――――ッ


ものすごいブレーキ音が、わたし達を覆いつくしたのだ。


「諏訪さんっ!」

何も見えなくなったことと尋常じゃないその音に、凄まじい恐怖を感じたわたしは、眩しさに目を伏せながら、咄嗟に諏訪さんの名前を叫んでいた。









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