それは誰かの願いごと




するとそう思った瞬間、ふわりと、わたしの心の中に舞い降りてきた人がいた。

それは、蹴人くん。

人の命に関係することは、かなえてあげられない、そう言っていた。
でも、”わたしの大切な人の幸せ” という願いなら、かなえてくれるんじゃ………


「蹴人くん!」

そう思ったらいてもたってもいられなくて、ソファから立ち上がって名前を呼んでいた。

これまで、蹴人くんに会うときはいつも蹴人くんに待ち伏せされていたから、こちらから呼んだところで、会いたいと思ったところで、来てくれるかどうかは分からない。
わたしの声が届くのかさえ想像もできないのだから。でも、

「蹴人くん?蹴人くん!」

いつもいつも、神出鬼没に現れる蹴人くん。
どこからやって来るのか分からず、わたしはキョロキョロと部屋中を見回しながら呼び続けた。

「蹴人くん、いないの?わたしの声が聞こえない?蹴人くん!」

徐々に、声が大きくなっていく。
眠ってる諏訪さんには申し訳ないけど、わたしはとにかく蹴人くんに会いたかった。

「蹴人くんっ!」

けれど、あの高い声の関西弁は聞こえてこない。
やっぱり、わたしから呼び出すのは無理だったのだろうか……

わたしが呼ぶのをやめると、ひたひたと、静寂の世界が舞い戻ってくる。

だが、






< 174 / 412 >

この作品をシェア

pagetop