それは誰かの願いごと
わたしは、わたしの告白にすら無反応の諏訪さんに、続けて語りかけた。
「………もし蹴人くんがわたしの願いをかなえてくれたら、きっと諏訪さんは、意識が戻ったあと、……浅香さんと幸せになるんですよね」
それは、わたしが願ったことだ。
正確には、わたしが蹴人くんにお願いしたのは ”大切な人の幸せ” だけど、諏訪さんの幸せなんて、浅香さんとの結婚に決まってるもの。
わたしはそれを覚悟して蹴人くんに頼んだのだから。
「……そうなったら、もうお二人の邪魔をしたりしません。でも今なら……、まだわたしの気持ちを伝えても、許してもらえますよね……?」
わたしは、諏訪さんにもっと近付いて、その手に触れた。
両手で握り、そこに温もりがあることに安堵し、はじめてつないだ諏訪さんの手に、思っていた以上のたくましさを感じた。
わたしが握っているのに、諏訪さんに包まれているようにさえ感じてしまう。確かにそんな大きさがあった。
意識がない状態にもかかわらず、それでも諏訪さんは、わたしが片想いしていた、頼りがいがある先輩の面影を残しているのだ。
「諏訪さん……、わたし、諏訪さんが好きです」
手を握ったまま、もう一度告げる。
眠っている諏訪さんに聞こえている確証はないけれど。
でも、今なら気持ちを伝えられると思ったから。
今打ち明けられたら、そこはかとなくはびこる後悔を、払拭できるような気がしたから。