それは誰かの願いごと
数週間ぶりに意識を取り戻した人とは思えないほど、諏訪さんはスラスラとセンテンスをつないだ。
口数が少ないという評判が嘘だったのかと疑いたくなるけれど、考えてみれば、口数が少ないままで、営業の仕事が成り立つはずはないのだ。
普段は無口でもクールでも、必要なときには多弁にもなれるからこそ、営業トップでいられるのだろうから。
それでも、わたしはまだ、浅香さんの結婚相手が諏訪さんではないのだと信じきれなかった。
「……でも、じゃあ、浅香さんが結婚するのは、」
「オレの友達」
「…………え」
「だから、オレの大学の同期。オレと浅香は同じ大学出身で、浅香とそいつは大学時代から付き合ってたんだ」
「え………」
”え” しか発しないわたしに、諏訪さんはクスクス笑いだす。
「これで誤解はとけた?」
「誤解……」
「そう、誤解。浅香が結婚するのはオレの友達で、浅香とオレはただの友人。オレと浅香が親しそうに見えるのは、同じ大学で同じクラブだったから。就職先が同じだったのはただの偶然で、オレは浅香のことを恋愛対象に見たことは一度もない。きっとそれは向こうも同じだと思うけど」
「で、でも、諏訪さんは、戸倉さんよりも浅香さんの方が親しそうというか……」
「そりゃ戸倉よりも浅香の方が付き合い長いから。でもその浅香には大学時代からずっと付き合ってるやつがいて、オレはといえば、和泉さんが入社して以来ずっと和泉さんに片想い中。他に質問は?」
ん?と見上げられて、わたしは、心臓が、どうしようもないほどドクドクしてきたのだった。