それは誰かの願いごと
「……それで、なかなかお願いを決められなかったわたしに、蹴人くんは、諏訪さんの幸せをお願いしたらいいんじゃないかと言ったんです。でもちょうどその頃、諏訪さんと浅香さんの結婚の話を聞いてて、それで、わたし………諏訪さんみたいに、自分の好きな人が自分以外の人と幸せになるなんて、とても近くで見ている自信がなくて………」
諏訪さんと比べて、自分はなんて弱い人間なんだろう。
ネガティブとかマイナス思考とか別にしても、わたしは…わたしの気持ちは、狭量で、自分本位だった。
こんなことを話して諏訪さんに見損なわれないか、嫌われないか、不安が襲ってくる。
けれど諏訪さんは、俯いたわたしの横髪を、そっと耳に掛けてきた。
耳をかすめる諏訪さんの指先に、ゾクリとしてしまうわたしがいた。
「そんなに、オレのことが好きだったわけだ」
嬉しそうな声が転がり落ちてくる。
「……でもわたしは、諏訪さんみたいに自分の気持ちを後まわしにして相手の幸せを願うことができなかったんです」
「それだけオレのことを真剣に想ってくれてた証拠だろ?それに、最終的にはオレの幸せを蹴人くんに願ってくれたんだろう?」
マイナスなわたしに、プラスの息吹を与えるように、諏訪さんは優しく笑いかけてくれた。