それは誰かの願いごと




「あかんよ、お兄ちゃんも一緒や!そんな時間かからへんからちょっと聞いて!お願いやから!」

男の子の叫びに、諏訪さんもビクッと体を反応させた。
さすがに、小さな子供にそう哀願されては、諏訪さんも足を戻すしかなかったようで、かすかなため息をこぼして男の子に体を向けた。

男の子は諏訪さんが留まったことを確かめるように見てから、満足げに、コホン、と仰々しい咳払いをし、胸をはって、高らかに言ったのだった。


「あんな、みんないい人やから、お礼に、みんなの ”お願い” を1個かなえてあげるよ!」


それは、とても子供らしい、メルヘンとも、ファンタジーとも感じられる ”お礼” だった。
”願いを聞いてあげる” ならともかく、”お礼にお願いを叶えてあげる” だなんて、童話や昔話に出てくるお決まりのセリフに聞こえたからだ。
おそらくまだ就学前と思われるこの年頃らしい、可愛らしい思いつきなのだろう。

—―――――それ以外に、受け取りようがなかった。


だからわたし達は、みんな、この男の子のことを、夢見がちなところのある、でも心優しい子なんだと思っていただろう。


この男の子が心優しいだけでないことを知るのは、もう少し後になってからのことだったから…………








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