それは誰かの願いごと




「そんな話までみゆきさんにしてたかしら?」

気分を害したようではなかったけれど、自分の記憶にないことを訊かれて、眉間には訝しそうなシワができている。

「いえ、それは……」

本当に、大路さんが蹴人くんの母親なのだろうか?
いや、珍しい字ではあるけれど、絶対に誰かとかぶらない名前でもない……ような気がしないような、そんな感じもあるかもしれなくて、わたしは著しく答えに窮した。

けれど、別にわたしへの助け舟のつもりではないのだろうけど、坂井さんの楽しげな声に、大路さんの眉間はもとに戻ったのだった。

「わあ、男の子だったらサッカー関連の名前にしたいって言ってたの、実行したのね」

「そうなのよ。主人がそこはどうしても譲らなくて。あ、でも他にも理由があってね、お腹の中にいるときに、とにかく私のお腹を蹴りまくる子だったのよ。4Dエコーでも凄くって。先生が『この子はよくキックする子やなあ』ってびっくりするくらいだったの」

「それで、蹴る人、なのね」

「そうなったのよ」

母親どうしの微笑ましい風景が展開していくけれど、大路さんの説明を聞いて、もうわたし達には確信の種がまかれたようだった。


「あら、もしかしてあなた、関西の方なのかしら?」

どの切り口から大路さんに当たろうかと迷っているうちに、年の功なのか、水間さんが平然と、そしてゆったりとした口調で口火を切った。









< 311 / 412 >

この作品をシェア

pagetop