それは誰かの願いごと
大阪出身のせいだろうか、大路さんは、自分の話にオチみたいな自虐を置いていく。
それが場の雰囲気を良くしてくれるのだけど、その裏には深い傷があるのではと、悲しい想像をしてしまう。
けれど、そんなわたしの心配は杞憂だと跳ね除けるように、大路さんはきっぱりと告げた。
「それでも、この悲しみとうまく付き合っていかなくちゃいけないのは、事実だもの。幸せになるとかの前に、悲しみとのうまい付き合い方を身に付けなくちゃと思いながら、この数年は泣くのを我慢してきたの。でも……」
大路さんはふわりと、淡く笑みを見せて。
「でもこれからは、泣きたかったら泣いて、そのあとでまた笑うようにするわ。そうしたら、もっとうまく付き合えるのかもしれない。蹴人は、そう教えてくれたのね」
すると、それまでおとなしく聞いていた蹴人くんが大路さんとご主人を交互に見上げて、
「ぼくは、笑ってるお母さんとお父さんが好きや。でも、泣いててもうじうじ言ってても、大好きなお父さんとお母さんには違わへん。ネガちゃんなお母さんもポジちゃんなお母さんも、ほっぺたつねってるお母さんも、ぼくを落としそうになるお父さんも、ぼくとサッカーしたかったなって落ち込むお父さんも、ぜんぶぜんぶ大好きや!だからぼくも、病院の先生に負けへんほど、お父さんとお母さんの幸せを、いっぱい、めちゃくちゃいっぱい、これでもかって言うくらいい―――っぱい、祈ってるからな…………」
最後に凛々しく、そう告げたのだった。