それは誰かの願いごと




蹴人くんと不可解な別れ方をしてから数日経ったある日、わたしは社外で取材立ち会いをした帰りに、偶然、諏訪さんを見かけて、思わず足を止めた。

会社近くのコンビニに入っていく諏訪さんは、相変わらず背が高くて、頭のてっぺんから足先までもがイケメンだった。

いつもなら、こうして偶然見かけただけで喜んで、それから、”良いことのあとの悪いこと” を心配してしまうところだけど、今日は、ちょっと事情が違った。

諏訪さんは、一人ではなかったのだ。
長身のスーツ姿の隣には、セミロングの髪の裾をゆるく巻いた、きれいな女の人がいたから。

浅香 夏希(あさか なつき)さん――――諏訪さんの同期で、同じく営業部の人だ。大学も同じで、わたしが入社した時、二人はすでに付き合ってる…という噂があった。

それも無理はない。二人並んだ姿は誰が見てもお似合いだったし、とにかく仲が良さそうだったから。
二人の他にももう一人、同期で仲が良い男性社員がいて、三人で一緒にいるのをよく見かけていたけれど、最近その人に彼女ができたので、余った二人の噂が加速していたのだ。

ズキ…と心臓が音をたてて痛む気がするのは、”良いことのあとの悪いこと” なのだろうか。
それとも、ただの片想いの副作用だろうか。

わたしは二人の姿を視界から消したくて、顔を背けた。

今日は良いことと悪いことがいっぺんに来たから、プラマイ0よね。

そんなこと考えながら社に戻ろうとしたそのとき、

「こんにちは」

ふいに、声をかけられたのだ。

思わぬことに驚いて振り返ると、諏訪さんが目の前に立っていた。









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