それは誰かの願いごと




「和泉さん、先日の取材の件で、担当された方が褒めてらしたよ」

それは、昼休みが終わってすぐのことだった。

今日は一日内勤の予定だった私は、すでにデスクワークに取りかかっていて、外から戻った先輩から声をかけられたのだ。

「え…。あ、もしかしてロンドン支社の件ですか?」

いきなりだったので少し考えてしまったけれど、思い当たることがないわけではなかった。

ヨーロッパ方面での取引を拡大させた我が社は、EU関連もあって、各支社の大規模な改編を行っているところで、先週、それについての取材を受けたのだ。
もちろんわたしは広報なので、詳細な取材は担当部署の社員が受け答えしたのだが、なにぶん、忙しい最中だったので、その段取りやセッティングに少々手間がかかったのは事実で。
けれどその甲斐あって、先方からは労いの言葉をいくつもいただいていた。


「難しいスケジュールをどうにかしてくれたって、喜んでらしたよ。その後の諸連絡も抜かりなくて、感心してらした。関係ない人にまで、きみのところの広報にはできる若手がいるらしいねって言われたよ」

「いえ、そんな…。わたしの仕事をしたまでですから」

関わった相手から評価されるのはもちろん嬉しいけれど、第三者からもそういう風に言われると、さらに嬉しい気もした。認められたようで、自然と背筋が伸びるというものだ。

先輩は「その調子で頑張れよ」とわたしの背中を叩いて、自分の席に戻っていった。








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