三日月と狼
情緒不安定な現実逃避行
今日は5年目の結婚記念日だった。

花澄は将輝とホテルに食事に出かけ、
そのままホテルの部屋に泊まった。

「5年間ありがとう。」

将輝はそう言って、照れ臭そうにネックレスを花澄の首にかけた。

「こちらこそありがとう。」

そして将輝にキスをすると、
将輝は花澄をベッドに押し倒した。

いつしか将輝とは子作りのための営みに変わった。

体温を測り、日を選んで交わる。

今夜がその日だと将輝に言った。

だけど花澄は嘘をついている。

こんな努力はもう無駄なのだ。

それを将輝に言えないでいる。

先週、不妊治療に行った病院で
医者から治療をしても子供ができる確率は極めて低いと言われた。

将輝に告げたらガッカリするくらいで済むだろうか?

自分はもう将輝に必要のない人間だと思われるかもしれない。

こんな風に同じベッドに眠る事はもう無いかもしれない。

そんなことを考えながら抱かれていても
気持ちよくないが
花澄は悟られないように甘い声で喘ぐ。

それが自分ができる精一杯だ。

終わると将輝は花澄の両足を持って上に持ち上げる。

「今度こそいい子が授かりますように。」

そう言って手を合わせた。

今夜こそ話そうと思っていたが、
花澄は結局話せなかった。









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