オオカミ社長は弁当売りの赤ずきんが可愛すぎて食べられない

11


 通話を終えてもまだ、私の震えは止まらなかった。
「ねーちゃん、もしかして弁当屋クビになった?」
 電話を切るや、葉月が心配そうに私の肩をトンと叩いた。高校三年生の葉月は今がまさに受験の追い込みで、自由登校の期間に入った現在は、連日自宅で猛勉強をしていた。
 すっかり油断していたが、葉月は私の電話のやり取りを聞いていたらしい。
「アルバイトだって労働契約で守られてんだ。即日でクビとか、あり得ないから。俺、抗議してくる」
 私は今にも飛び出して行きそうな葉月の袖を、慌てて掴んで引き止めた。
「葉月、違うの。お弁当屋さんに非はないの。今回の件はむしろ、私がお弁当屋さんの迷惑になってる。私がお客さまとトラブルを起こしたせいで、店長が大変な状況に追い込まれてる」
「なにそれ!?」
 私の言葉に、葉月は驚きに目を剥いた。
「仕入れ先から、相当な圧力がかかってるみたい。それから公園の運営さんからも、急に来年度の出店の契約更新が難しいって言われたみたいで、店長も憔悴しきってた。全部、私のせいなの……」
「っ、……」
 葉月は言葉を詰まらせて、なんとも言えない表情で私を見上げていた。
 葉月の憤りが、伝わってくるようだった。
 私は無理矢理に口角を上げ、葉月に向かって笑った。
「なーに葉月、しけた顔して? 理不尽ではあるけど、私がお客さんと揉めちゃったのは事実だから。私が辞める事でお弁当屋さんが今まで通り営業できるっていうんなら、私はそれが一番嬉しい! アルバイトはさ、お弁当屋さんだけじゃないでしょう? 短期で、他で働けばいいんだから。だから心配いらないよ!」
 葉月に告げた言葉は、本当は自分自身にこそ、言い聞かせたかったのかもしれない。
「ねーちゃん……」
「葉月、私、事務所に行って、置いてる荷物だけ受け取ってくるよ」
 私は早口で告げると、トートバックだけ手に、足早に玄関に向かう。
 葉月は何か言いたそうにしていたけれど、私は敢えて気付かないふりをした。
「それじゃ、いってくるね!」
 私は自宅アパートを飛び出した。
 これ以上、葉月の前で平静を装って居続ける自信がなかった。僅かにでも気を緩めれば、じんわりと熱を持つ眦に、涙が滲んでしまいそうだった。
 
< 26 / 95 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop