オオカミ社長は弁当売りの赤ずきんが可愛すぎて食べられない

「……明彦さん」
 けれど穏やかな今に、ほんの僅かにかかる影……。明彦さんが何かしらの憂いを抱えている事は間違いなかった。
「なんだ?」
 私の呼び掛けに、明彦さんが静かな眼差しを向ける。一見すれば、そこには穏やかな光だけが浮かんでいる。
 けれど、ほんの少し何かが違う。上手く言葉で言い表せないが、穏やかな光の裏に見え隠れする、何か……。
「明彦さん、私に聞かせてもらえませんか?」
 唐突な私の物言いに、明彦さんは小さく首を傾げる。けれど急かす事はせず、静かに私の言葉を待ってくれる。
「私の目には明彦さんが、何か困っているような、あるいは難しい状況に直面しているような、そんなふうに見えます」
 明彦さんは目を瞠り、そうして少し困ったようにクシャリと笑った。
「明彦さん、私に何か協力できる事はありませんか?」
「……これは、驚いたな」
 苦笑と共に呟くと、明彦さんはスッと表情を引き締めた。
「月子には、なんでもお見通しのようだ。だが月子、これは俺の問題だ。だから月子に迷惑は――」
「迷惑な訳ありません!! 明彦さん、私も私の家族も、明彦さんに助けられました。今度は私が、明彦さんの力になりたいんです!」
 気付いた時には、明彦さんの言葉を遮って、声を上げていた。
「月子……」
 明彦さんは驚きを隠せない様子で、私を見上げていた。けれど私は興奮のまま、更に言葉を続けた。
「もちろん直接的な事業計画に関しては、私に何ができる訳もないって分かっているんです。だけど私も明彦さんの為に、何かさせて欲しいんです。私に何か、協力できる事はありませんか!?」
 言い切った後で、私自身、大胆過ぎる自分の言動に驚いていた。だけど、どうしても言わずにはいられなかった。
 なにより、今告げた言葉に嘘はない。偽りのない、正直な思いだった。
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