ハイスペックなイケメン部長はオタク女子に夢中(完)
2.苦手なタイプ

あやめが戻ると、課長は、

「じゃぁ後の手続きは吉田さん、頼むよ。」と言って席を立った。あやめは、

「かしこまりました。」と課長に答えて一礼し、北見部長に対面して一礼し、

「総務課の吉田です。異動と転居の事務手続きについてご説明させて頂きます。」と言った。北見部長は柔らかく微笑んで、

「どうぞ、お願いします。」と、あやめに座るように向かいの席を指した。あやめは、会釈をして座り、ファイルから書類を一枚ずつ出し説明し、役所関係の手続き、急ぐものと、そうでないものとを分け、サインの必要箇所、印鑑の場所等付箋をつけながら一通り説明した。北見は

「吉田さんは入社何年目?」と突然聞いた。あやめが

「3年目です。」と答えると

「あー、じゃぁオレが出向後に入社か。どおりで見たこと無いと思った。」と北見は言った。あやめがどう答えれば良いのかわからずにいると、

「ずっと総務課?村川課長って厳しい?」と聞いてきた。

「はい、入社依頼ずっと総務課でお世話になっています。村川課長は特に厳しい方ではないと思います」と答えると、

「そう?昔から気難しい人ってイメージだし、総務課員の異動願いを出す率が半端ないって噂聞いたんだけど」と北見は言った。あやめは

「気難しいという程ではないと思います。確かに課長は口数が少ないので、必要最低限の指示しかされないですが、特に問題はありません。異動願いを出す率が高い理由は、課長云々ではなく、クリエイティブな仕事を求めて入社した人たちは、総務課の仕事を雑用でしかないと考えるからだと思います。異動願いを出した人たちは、雑用なら自分じゃなくても誰でも出来る。総務課の仕事にやりがいを感じられないとおっしゃっていました。」と答えた。北見は

「なるほどねー。で、吉田さんは、その総務課に実際3年いてどうなの?」と聞いた。あやめは

「確かに、特に何か能力が問われるような難しい仕事内容ではないですし、誰にでも代わりのきく仕事なのかもしれません。でも、雑務だから放って置いて良いということはなくて、結局は誰かがやらなきゃ円滑に仕事は進まないと思います。」と答えた。北見は

「そうだね。君の言う通りだ。誰にでも出来るように見える仕事っていうのは、実際には誰にでも続けられる仕事じゃないんだ。きっとそういう部分で村川課長は君を信頼してるんだろうね。」と笑った。

「どうでしょう?私にはわかりません。」とあやめが答えると、

「そうじゃなきゃ、君にまだ発表前の人事情報を漏らすわけがない。」と北見は言った。あやめは

「こういった事務手続きの説明は私の仕事ですから」と答えた。あやめは正直、北見のように、まるで探りをいれるようにポンポン会話を投げかけてくる人が苦手だった。やっぱりイラストの材料にだけさせてもらおうと、頭の中で考え、適当に話を切り上げようと

「では、書類のことで、何かご不明なことがございましたら、総務課にご連絡下さい。」と言って、立ち上がった。北見は話を切ったことを気にも止めず、

「吉田さんって、下の名前は?」と聞いてきた。

「吉田あやめです」とあやめが答えると、

「あやめかー。素敵な名前だね。」と北見は微笑んだ。あやめは頭の中で、あー、この人のこの笑顔に一体何人の女性がひっかかってきたんだろう?と冷静に思いながら

「ありがとうございます。」と軽く微笑んだ。すると、北見はさっきよりももっと笑って立ち上がり、

「やっと笑ってくれた。やっぱり、思った通り。吉田さん、せっかくキレイな顔してるんだからもっと笑ったほうが良いよ。」と言い、資料を持ってドアへと向かった。あやめが一瞬何を言われたのかポカンとしてから

「努力します。」と答えると、北見は

「よろしくね」と笑って会議室を後にした。
< 2 / 36 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop