夜のしめやかな願い

     *

その時、さゆりは宗臣をただ眺めていた。

見入っていたのかもしれない。

冴え冴えとした空気。

きっちりと整えた茶色の髪や大きな二重の目も、くちびるの線ではクールな王子様に見える。

現に、そう周りは囁いていた。

でも、いつだって宗臣が感じさせるのは、寒い冬の月夜だ。

いつも冷たい。

いつも凍りつく。

宗臣に見下ろされている父が小刻みに震えているのに、さゆりは後ろ暗くも喜んでいた。

この父は嫌いだ。

母も嫌い。

だから慈悲もなく踏みにじってくれた宗臣に見惚れたのだ。

宗臣が視線を動かした。

目があって、さゆりは自分が笑っていることに気が付いた。

それを見て宗臣が一瞬だけ、柔らかく微笑する。

見間違いだろうか。

きっとそう。

さゆりは父親が連れ去られていくのを、ただ他人事のように見送った。

< 2 / 187 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop