素敵な協議離婚~あなたが恋するメイドの私~
6月12日

協議離婚が成立して、私は月々分割で相当な額の慰謝料を貰えることになり、別れて2か月後、そのお金でこじんまりとしたアパートを借りた。
2階建てで、一人では少し大きいかなとも思ったが、貰う慰謝料の額を考えるとここの家賃などいくら払ってもお釣りがくるくらいだった。

週2日、写真の教室に通い、その教室の講師である写真家ジェラルド・ハリソンに薦められてカメラを購入した。
コンクールも視野に入れて撮影するには、やはり性能のいいカメラは必要だった。
ジェラルドとはハイスクール時代から師弟関係にあり、結婚してからも度々支えてくれた良き友人でもあった。
嘘か本当かわからないが、彼は私には才能がある!といって譲らない。

「うん、メリーの写真はやっぱりいいよ。きっと僕なんかよりも有名になるね、絶対」

「そ、そうかな?……いやいや、からかってるんでしょ?」

「そんなことない!君はもっと自分の才能に自信を持った方がいい!」

ジェラルドの言葉に、私はハイスクール時代の奔放で自信家で負けず嫌いな自分を思い出していた。
不思議なことに当時は誰にも何にも負ける気がしなかった。
何の根拠もないのにそう思えたのは、きっと若かったからだろう。
22歳になる私は、そんなに歳をとっているわけじゃないけど、あの追い詰められたような3年間で自信や尊厳を根刮ぎ刈られたようなものだ。

「ありがとう、ジェラルド。私、また自分を信じられそうな気がするわ」

「何言ってんだよ!本当にメリーの写真は素敵なんだからね!」

「ふふ、はいはい、ありがと!」

「それと……僕がこの前言ったこと……考えてくれたかな?」

ジェラルドの照れたような微笑みに、暫く忘れていた彼からの提案を思い出した。

「……あの、まだ考えられないわ。離婚して2ヶ月しかたってないのよ。いくらなんでも、ねぇ……」

「あっ、いや、いいんだ!急かしてるわけじゃないよ。忘れられてないか確認しただけ。僕は、君が何もかも吹っ切れるまでずっと待つよ」

ランスと別れてから、ジェラルドはプロポーズをしてくれたけど、そういう関係ではなかったし、そういう風にも見れなかったのできちんとお断りをした。
した筈だったが、彼は食い下がって私の気持ちが変わるまでずっと待っていたいと言ってきた。
気持ちは変わらないと思う、そう言いたかったが、辛いときにずっと側にいてくれた彼のことを思うとそんなことも言えずに、保留にしてきてしまったのだ。

「ジェラルド……ごめんね」

「いいさ、……ね、夕飯まだだろ?近くにいい店が出来たんだ!実はもう予約してあって……一緒に行かない?」

「ふふっ、いいわね!楽しみだわ!」

面倒くさい話は一旦後回しにして、私達は先に食欲を満たすことを考えた。
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