Ｇod bless you！～第１3話「藤谷さん、と」

★★★右川カズミですが……〝あの頃に待ち合わせたい〟

突然、ツーーーーと耳鳴りが始まった。
沢村の問い掛けに、とりあえず該当の数字は浮かぶ。
でも、そこで体中の血が、時間が止まってしまった。湧き上がる不安を抑えようと、でもその不安は徐々に大きくなって、頭上を越えていく。
試験……。
受け……てないよ。
目の前が真っ暗。
息できない。
周囲の賑やかな音も、キラキラしい風景も入ってこない。
折山ちゃんや藤谷の事で頭が一杯だったから……いや、それは言い訳だ！
忘れていた。すっぽりと抜け落ちて。
あたしは思わず、耳を塞いだ。
雑音を追い出す。思い出せ。思い出せ。
この所のあれこれを思い浮かべて……昼の学部の子は松倉も海川も、友達同士で約束して、待ち合わせして一緒に試験に行った。夜間を受けるのは、あたし独りだけ。他には誰も居ない。だから１人で行かないといけない。それは最初から承知だった筈。修道院の願書は自分で書いた。お母さんがポストに出してくれたと後で聞いた。受験票……あるはずだよね？そういえば１度も見ていない。まさか、お母さん、出すの忘れた？
だけど！
奇妙な事がある。
前日、のぞみちゃんと職員室で会った。確かに会った。だけど何も言われなかった。割と最近まで毎日のように、来月試験＆あとちょっとで試験＆もうすぐ試験、頑張れ頑張れと、散々言われ続けていたのに。
前日、お母さんまで、あたしの試験の事を１言も言わなかった。
妹のヒロミの高校受験の話は模擬試験の日程から、毎日のようにしてるっていうのに。
何故？
それって不自然じゃね？
いつの間にか、立ち止まっていた。
信号が青になって、向き合う誰かとすれ違い様に肩がぶつかる。
あたりが急に暗くなったような。
足元がフラついた。まるで貧血を起こす前触れのようで。
思わず、両手で口元を塞いだ。
気を抜いたら、マジで吐きそう。
「どうかした？」
沢村が横からあたしの様子を窺った。
「実は、ちょっと聞きたいことがあってさ」とか何とか言いはじめて。
しかし、そこから先、あたしにはもう何も聞こえて来ない。
「ヤバい……」
それだけやっと言った。「おい！」と、沢村が引き止める。
しかしそれどころじゃない！
沢村を独り取り残し、あたしは急いで学校に引き返した。
のぞみちゃんは、まだいるだろうか。
みんな帰った後の校舎、職員室の明かりがぼんやりと点いている。
のぞみちゃん、いた！
のぞみちゃんは、ワンピース姿のあたしを見て、「誰かと思った。どうしたのそれ」と説明を求めたが、今はそれどころじゃない。
説明を聞きたいのは、こっちだよ！
あたしの試験日。
のぞみちゃんは、「それがどうかした？」と、したり顔。
「だって、もう関係ないでしょ」
「え。何言ってんの」
「だって志望校、変えたんだし」
「え、知らないよそんな！」
うっそー……と、のぞみちゃんは椅子をクルクルさせた。
「だって、いつだったかな。親御さんから連絡もらったよ」
「え？」
「塾の先生から、受ける大学のリストも来てたし」
ハルミちゃん？何で？
見ると、

伐ヶ丘大学　
征和女子大学　
吉凛女子短期大学　
新里記念大学　
潮音女子短期大学　

大学の名前が羅列してある。どれも小耳に挟んだ程度の聞き覚えだった。
「あと、他県の大学も色々と入ってる。試験はほとんどが２月から。３月からの２次試験も受けるなら、そしたらそれの願書も必要だよね。どれか行けるといいんだけどね。追い込み、頑張れ」
それ、なにーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ！？
あたしのカバンの中では、さっきから携帯が鳴りっぱなし。
たぶん、沢村だ。
チーズケーキを抱えたまま、あたしは呆然と立ちすくむ。
そこへ、隣の校長室あたりからテレビの音が漏れて聞こえてきた。
クリスマス・ソングがシャンシャン言ってるけど……これ、夢じゃね？
あたしのすぐ横で、のぞみちゃんが歌いだした。
「いい歌でしょう？知らないよね。高橋洋子なんだけど。エヴァじゃないんだよ」
タイトルはずばり、今のあたしの心境そのまま。

〝あの頃に待ち合わせたい〟





＜Ｆｉｎ＞

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第１４話　予告。
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受験シーズン。
沢村は試験本番。
そして、カズミちゃんには〝第３の男〟が急接近（？）

お楽しみに♪