俺がきみの一番になる。
さらに声を低くして、本田君がきっぱり言い切った。私の前で見せる笑顔はひとつもない。
「なん、で……っ。草太はいつだって、あたしには冷たいよね」
沢井さんは悔しそうに唇を噛みしめて、さらには拳をきつく握りしめ、肩を震わせている。
本田君は無表情で、沢井さんの顔を見ようともしない。
「もう、いいよ。草太の、バカッ」
沢井さんの目には涙がにじんでいた。本田君の顔をキッと睨みつけたあと、駆け足で昇降口を出て行った。
見てはいけないものを見てしまったようで、とても気まずい。
きっと沢井さんなりに頑張ってアピールしたんだよね。振り向いてほしくて必死なんだよね。
「いいの? 追いかけなくて」
「いいんだよ、期待させたくないし」
「そっか……」
期待させたくない、か。ってことは、本田君は沢井さんの気持ちに気づいているってことか。まぁでも、あれだけあからさまだったら普通は気づくよね。
「なんだか切ないな。沢井さんの気持ちが亜子にはよくわかるから」
「俺だってわかるよ。だからこそ、あえて冷たくしてるんだし」
「じゃあ、亜子も本田君に冷たくしようかな。中途半端なことはしたくないし」
思っていたことをポロッと口にしてしまった。ハッとした時には遅くて、本田君は困ったように笑っている。
それを見て、少しだけ後悔した。