星空電車、恋電車
「でも今さら縛ろうなんて思ってないから、俺は勝手に千夏のことを想う。千夏は好きなように生きていいんだ。さっきも言ったけど、恋愛していい人ができたのなら結婚したっていい。でも、2年後帰国した俺と会って欲しい。大人になってる俺を見て欲しい」

「そんなのって・・・」

「うん、俺の自己満足だね」

わかってるならなんで。

「俺、かなりしつこいみたいなんだよね。逃げられた恋人のことが忘れられない。それに2年も日本を離れるんだから何か目標みたいなものがあってもいいと思わない?」

軽い調子でくすりと笑う樹先輩にもうダメだとは言えなくなった。

「2年後、私も待ってます。その時には逃げださないように私も大人になっておきますから」

流されたように私の口から了承の言葉が出てしまい思わずくすりと笑ってしまう。

スマホの向こう側からフッと息を吐いたような気配がして
「よかった」
と樹先輩のホッとしたような声がした。

「明後日に出国なんだ。千夏と話ができて良かった。ありがとう。2年後の約束忘れないで」

「はい。あ、あのどうか身体に気を付けて頑張ってください」

「ありがとう。次に会うときはちーに胸を張って会いたいからね。頑張ってくるよ」

そうして静かに電話は切れた。


耳に残るのは樹先輩の言葉。
千夏のことを想う、って。

本気にしたわけじゃないけど、高校生の頃の恋愛が辛く悲しいだけの思い出だったのがちょっとだけ塗り替えられた、そんな気持ち。
私は二股かけられたわけでも捨てられたわけでもなかった。
私のことは好きでいてくれたんだと思ったら胸が温かくなってちょっと切なくなった。


イギリス留学かーーー
これで春からの新入生のサークル勧誘には樹先輩は来ないし、イベントで会うこともない。
柴田姉妹と一緒にいる樹先輩を見ることもなくなるし、私は心の平穏を得ることができるはずなのに・・・。

スマホを握りしめている自分に気が付いて苦笑する。
会っていない期間があったのに、あれから2年たっても樹先輩に心が乱されるのだからこの先も2年くらいで私の心が変わるとは思えない。

樹先輩のことが忘れられない。

留学から戻ってきた樹先輩に会うことを励みに2年間私もここで頑張ることもいいなと思うことにしよう。
2年後、樹先輩はどんな大人になっているだろう。



ーーーどうか無事に帰ってきて




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