星空電車、恋電車
向かえた引越し当日、自宅で引っ越しトラックを見送り、私と母は二人で電車で神戸に行くために駅に向かう。
生まれて16年過ごしたこの地を離れる寂しさと、一刻も早くここから離れたいという思いが混在して複雑な気分だ。
電車を待っていると、ホームに向かって来るのは毎日の登下校で見慣れた赤色ではなく、見たことのない色の電車だった。
なんだろう、同じ形なのに色が違うと全然違う電車に思える。
「あら、ずいぶんキレイな紺色ね」
母の言葉に隣に立っていた駅員さんが笑顔をみせる。
「これは特別運行されている願いごとを叶える幸運の”星空電車”なんですよ。本日初運行です」
「特別運行ですか?」
「はい。本当に特別で、時刻表には記載されていません。次はいつ運行になるかもわかりません。ですから特別なんです」
そう言われてみると、ホームにいる多くの人たちはスマホのカメラを向けている。
「この偶然に出会えた乗客の皆さんのご幸運をお祈りします」
駅員の男性は誇らしげに胸を張り敬礼をした。
「レア電車ってことね。千夏、私たち最後の最後にラッキーだったかもしれないわね」
母も喜んでスマホのカメラを向けていたけれど、私はたかが電車に感動も何も感じなかった。
レアだか何だか知らないけれど、どうせ鉄道会社の経営戦略。どうでもいい、それよりも早くこの街から離れたい。そんな気持ち。
特別だという”星空電車”は到着を告げる駅メロまで違っていた。
ホームに流れているのは一昔前に流行った有名なポップス系の曲だ。
でも心が荒んでいる私には何もかもが気に入らない。
幸運の星空電車?願い事を叶える?
ふざけんな。だったら今すぐに私のふくらはぎの故障を治して。樹先輩のことを忘れさせて。
今までのことをなかったことにして。
…どうせ願っても叶いやしない。
離れてしまった樹先輩の心を取り戻すことなど望まない。
誠実で優しいと思っていたあの先輩のことは今はもう欠片も信じられない。
結局、あの悪夢のようなインターハイ後から今日までの間に彼と会ったのはたった1度だけ。
なかなかラインの返信をしない私を心配して樹先輩が家を訪ねて来てくれたのだった。
それはあの桜花さんとのデート現場を見る二日前のことだった。
あの日私と会っている時も何度も樹先輩のスマホが鳴っていて、たぶん彼女からの着信なんだろうなという気がしていた私はずいぶん嫌な気持ちになった。
流石に樹先輩は電話を取ることはなかったけれど、あの時点では私はまだ樹先輩の彼女だったはず。
何度も鳴るスマホに嫌気がさして樹先輩にはすぐに帰ってもらった。
彼女と彼は毎日のように会っていたのだろうに、たった一日でも離れてはいられないのか。
ーーーそんなこと、もうどうでもいいけど。
生まれて16年過ごしたこの地を離れる寂しさと、一刻も早くここから離れたいという思いが混在して複雑な気分だ。
電車を待っていると、ホームに向かって来るのは毎日の登下校で見慣れた赤色ではなく、見たことのない色の電車だった。
なんだろう、同じ形なのに色が違うと全然違う電車に思える。
「あら、ずいぶんキレイな紺色ね」
母の言葉に隣に立っていた駅員さんが笑顔をみせる。
「これは特別運行されている願いごとを叶える幸運の”星空電車”なんですよ。本日初運行です」
「特別運行ですか?」
「はい。本当に特別で、時刻表には記載されていません。次はいつ運行になるかもわかりません。ですから特別なんです」
そう言われてみると、ホームにいる多くの人たちはスマホのカメラを向けている。
「この偶然に出会えた乗客の皆さんのご幸運をお祈りします」
駅員の男性は誇らしげに胸を張り敬礼をした。
「レア電車ってことね。千夏、私たち最後の最後にラッキーだったかもしれないわね」
母も喜んでスマホのカメラを向けていたけれど、私はたかが電車に感動も何も感じなかった。
レアだか何だか知らないけれど、どうせ鉄道会社の経営戦略。どうでもいい、それよりも早くこの街から離れたい。そんな気持ち。
特別だという”星空電車”は到着を告げる駅メロまで違っていた。
ホームに流れているのは一昔前に流行った有名なポップス系の曲だ。
でも心が荒んでいる私には何もかもが気に入らない。
幸運の星空電車?願い事を叶える?
ふざけんな。だったら今すぐに私のふくらはぎの故障を治して。樹先輩のことを忘れさせて。
今までのことをなかったことにして。
…どうせ願っても叶いやしない。
離れてしまった樹先輩の心を取り戻すことなど望まない。
誠実で優しいと思っていたあの先輩のことは今はもう欠片も信じられない。
結局、あの悪夢のようなインターハイ後から今日までの間に彼と会ったのはたった1度だけ。
なかなかラインの返信をしない私を心配して樹先輩が家を訪ねて来てくれたのだった。
それはあの桜花さんとのデート現場を見る二日前のことだった。
あの日私と会っている時も何度も樹先輩のスマホが鳴っていて、たぶん彼女からの着信なんだろうなという気がしていた私はずいぶん嫌な気持ちになった。
流石に樹先輩は電話を取ることはなかったけれど、あの時点では私はまだ樹先輩の彼女だったはず。
何度も鳴るスマホに嫌気がさして樹先輩にはすぐに帰ってもらった。
彼女と彼は毎日のように会っていたのだろうに、たった一日でも離れてはいられないのか。
ーーーそんなこと、もうどうでもいいけど。