星空電車、恋電車
「この子、俺よりも柴田に見とれてるみたいだぞ」
アイドルもどきさんにけらけらと笑われてはっと我に返った。

「ごめんなさい」
不躾な視線を投げてしまったことを謝って潔く頭を下げると、
「いいの、いいの、慣れてるから~」
と柴田さんは微笑みながらひらひらと手を振った。

「私、アイドルの”牧野あやめ”に似てるんでしょ?よくガン見されるからもう馴れっこよ」

ふふふと笑う柴田さん。
それに「ホントにすみません」と曖昧に返す。

私は”マキノアヤメ”なるアイドルを知らないし彼女をガン見していた理由は全く違う。でもそれを説明する必要もない。

「ね、よかったら新歓コンパに来ない?聞いたと思うけど、インカレサークルだから他の大学の人たちもたくさんいるの。それにうちは他のサークルとかけもちもオッケーだから星に少しでも興味があったらお勧めよ」

確かに星空には興味がある。でも柴田さんの顔を見るのが辛い。

「い、いえ、私は結構です」
「ね、一回話を聞くだけでもどうかしら。ご飯を食べるだけでもいいのよ?」

今や先に声をかけてきたアイドルもどきさんを押しのけて柴田さんが私に迫って来ていた。
ひゃー、押しが強い。

「あれー?ちなっちゃんじゃない。どうしたの?」
ぐいぐいくる柴田さんに困っていると、後ろから声をかけられた。

「恵美さん」
そこにいたのはアパートの隣の部屋の住人、同じ大学の3年生斎藤恵美さんだった。

「あれ?この子斎藤さんの知り合い?」
アイドルもどきさんと柴田さんが共に驚いた顔をした。

「そうよ」
恵美さん頷いては私たち3人の顔を見回してすぐに私が困っているこの状況を判断してくれた。

「ちなっちゃん、バイトもあるし、サークルの掛け持ちはキツいよ。学生生活も慣れてないでしょう」
明らかな助け船を出してくれる。

途端に「え?もうバイトもサークルも決まっているの?」とアイドルもどきさんと柴田さんが同時に声を出した。

「あ!そう…そうですよね!キツいですよね。ごめんなさい、無理みたいですしこちらはやめておきます」

ペコリと頭を下げると
「待って、待って。入部はいいからこれ持って行って」
柴田さんから強引に1枚のビラを渡された。


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