星空電車、恋電車

駅に着いて電車の到着するギリギリまで一緒に過ごす。
ここもかなり重要なポイントで。
電車が発車したばかりだとラッキーなんだけど、すぐに来てしまうと少ししか一緒にいられない。

地方都市の市民の重要な足である赤い4両編成の私鉄電車は1時間に6本。10分に1本のダイヤだ。

今日は駅に着いてから8分ほど時間があった。
列車の到着を告げるアナウンスまで他愛のない話をして一緒に過ごす。
別れ際は毎日名残惜しいけれど、仕方ない。

「じゃあまた明日」
「ハイ。樹先輩も気を付けて帰ってくださいね」

改札を通ってすぐにホームに滑り込んできた電車に乗ると、2両目の一番前のドアのガラスにへばりつくように立ち外を見る。
踏切の遮断機の向こう側で樹先輩が見送っていてくれるから。

電車の中から私は小さく手を振り樹先輩は笑顔を返してくれる。
この余韻にずぶずぶと浸りながら私は家に帰るのだ。

競技直前スイッチが入るとまるで別人のように鋭くなる彼だけど、普段はふんわりと穏やかな優しい人だ。
この人を好きになって、そして自分のことを好きになってもらって本当に幸せだと思う。
だから樹先輩の競技と受験の邪魔はしない。
そう心に固く誓っていた。

受験が終わったら
そう彼の受験が終わったら、約束のデートをするんだから。



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