星空電車、恋電車
集団からうまく距離をとり、並木の陰に入ってからそっと振り返った。

やっぱり樹先輩がいる。
男女の集団の中に彼がいた。

隣には当然のように柴田さんがいて、二人がかなり親しげに話をしている様子が目に入り胸がじくじくと痛む。

樹先輩が他の男子メンバーと共に大きな段ボールを抱えて持ち上げると、彼の着ていたジャケットの襟元にシワがよってしまい、それを柴田さんが当然のように樹先輩の身体に触れて襟元を直している。

足元がぐらりと揺れて、私の脳裏に桜花さんが浮かぶ。
駅で樹先輩の腕をつかんだ彼女。
街なかで手を繋いで楽し気に歩く二人の姿がフラッシュバックする。

まただ。

目の前が暗くなり、足に力が入らない。
あの時と同じ。
血の気がスーっと引いていった。

もう私は樹先輩の彼女じゃない。
なのに胸が痛い。
心が抉られるように痛い。

樹先輩の隣には桜花さんそっくりな女性がいて、ごく自然に彼に触れている。
吐き気にも似た感覚がして胃の底にどす黒い塊が生まれた。

私は全然乗り越えられていない。
結局2年前と同じ場所で立ち止まっているんだ。

樹先輩から逃げたくせに樹先輩を忘れられない。
樹先輩に触れる女性を見ただけで血の気が引き、嫉妬心が疼き出す。
私は選ばれなかった女なのに。

背後で樹先輩と柴田さん達の集団が遠ざかっていく気配がした。賑やかな声が遠のいていく。

そう、早くいなくなって。
そして出来ることならもうここには来ないで欲しい。
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