星空電車、恋電車
「ね、ちなっちゃんここまで走ってきたみたいだけど、足は大丈夫?」

実は走って公園を出た辺りから右足に違和感があった。スタートダッシュがよすぎたのかも。庇うようにして走ったから痛めたふくらはぎだけじゃなくて今では右腰まで鈍痛がする。

「ん、多少痛みが」
「ほら、無理するからだ」
山下さんが心配そうに私の顔を覗き込む。

「見えないようにテーピングしてあるし、大丈夫ですよ」
「腰まで響いてるんだろ、甘く見ない方がいいよ」
それもバレてた。よく見てるなぁと感心してしまう。

「明日まで痛みが残ったら病院に行ってきます」
「うん、そうした方がいい」
山下さんは頷いたけれど、恵美さんはまだ心配そうな表情を変えない。

「そんな事より、お休みの日にここを開けてもらって申し訳なかったです」

「ううん、そんな事気にしないで。ここの鍵は叔母さんから預かってて私がこうして定休日に使っても文句言う人じゃないから」

ここは恵美さんの叔母さまが経営するカフェで、定休日の今日わざわざ恵美さんと山下さんは私のためにここで待っていてくれた。
そもそも私と樹先輩の待ち合わせ場所を決めたのは山下さんだけど。

「叔母さまにもお礼を言わないとですね。ここがあって本当によかったです。あんな顔で電車に乗るのも辛すぎる」

鼻をかんでおしぼりで顔をぬぐった。
どうせたいしたメイクをしてるわけじゃない。取れたって全然平気だ。

隣に座る恵美さんが私の身体を引き寄せ抱きしめてくれる。

恵美さんの肩にとすんっともたれて安堵の息を吐いた私に「がんばったね、えらいえらい」と労いの言葉が落ちてきた。

ミッションコンプリートーーーだよね?

「これで区切りがついたんだから、切り替えよ。もう過去に囚われなくていいの。ちなっちゃんもその先輩も」

「・・・そうですね」

これで区切りなんだろうか。
私は樹先輩を忘れることができるのだろうか。

樹先輩も私のことを忘れるんだろうかーーー







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