姫は王となる。






「王様、おはようございます」


翌朝支度を済ませ、メイドたちを部屋から下げさせていると老婆が入ってきた。


「おはよう」


老婆は目の前に膝まつき、頭を下げた。


「一晩経って、お考えは変わらないでしょうか?」

…まだ、言うのかー…


「変わらない。現地からの報告はあったのか?」

「それは、私から報告致します」


「!」


風が開いた部屋の扉の前に立ち、頭を下げた。


「…人払いを」

扉の前に立つ警備兵に指示を出すと、風は部屋の扉を静かに閉めた。



「何かあったのか?」


「今朝副長から、現地の状況の報告が上がってきました」


風はそう言いながら、老婆の隣に膝まついた。


「村人の半数以上が殺され、家屋や田畑などは焼かれてしまったと」

ドクン!

「!」


なんて酷いことをー…


「副長が到着した時には、もう襲ってきた者たちはいなかったそうです。しかし村人たちの目撃情報によると、襲ってきた者たちは皆、北国との国境に逃げて行ったそうです」


またしても…北国かー…



握る拳に力が入る。



「今は生きている村人たちの手当てをし、亡くなってしまった村人たちを埋葬するよう指示を出しました。現地は最悪の状況ですが…」



そこまで言うと、風は言葉を止めた。



…風もかー…


「多くの犠牲者が出てしまった。この国の責任者である私が城の中で守られ、現地の状況を見ずに正しい指揮をとれると思っているのか?」


「しかし、まだ安全も確保できていない状況で、王様が自ら行かれるのは危険過ぎます」


「何度も言われても、私の気持ちは変わらない。すぐに出立する。皆にそう伝えよ」


「…はっ」


風は頭を下げ返事をすると、部屋から出て行った。






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