お日様のとなり
背に腹は変えられないと言うけれど

私は笑えない。

それはいつからだったのか、もう思い出すことも出来ないくらい昔のこと。

もうどうやって笑えばいいのかも分からなくなってしまった。

この先もきっと、私はーーー。



「みあ、みあ!」

「えっ?」

腕を掴まれて、はっとする。

振り返ると、焦った顔をしたイチくんがいて、ずっと名前を呼ばれていたのだと気付く。

「どこまで行くんだよ。もう目の前、海だけど」

「あ、ほんとだ……」

無心で歩いていたら、こんな所まで……。

イチくんが止めてくれなかったら、今頃足が海に浸かって濡れてしまうところだった。

「ごめん。前見てなかった」

「ははっ、どれだけぼーっとしてたんだよ!」

イチくんが笑う。

イチくんの笑った顔を見て、少し心が落ち着いた。

少しずつ周りの声が耳に入ってきて、波の音に目を向ける。

寄せては返っていくさざ波。

波打ち際の水は透き通っていて、太陽の光が反射してキラキラと光っていた。

その様子を一枚写真に収めてみる。

「あれ?」

煌めく波はすぐにフレームアウト。

またすぐに次の波がやってくるけれど、その大きさもまばらで、これという一枚がなかなか決まらない。

じっとしていてはくれない波を撮るのって難しい……。

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