極上御曹司に求愛されています

「いつもお忙しいですよね。真島先生のような有名弁護士さんだと弁護の依頼もかなりの数だから仕方がないですけど」

忙しい真島の体を気遣う芹花に、真島は人のいい笑顔を返した。
真島にとって二十五歳の芹花は、娘のような存在で、地元を離れて一人で暮らしている彼女をいつも気にかけている。

「有名弁護士っていうのは面倒だけど、それなりに仕事をこなしてきたからね。実績だけで安心する依頼人も多いし。とはいっても、最近では若い弁護士たちも頑張っているし、天羽さんたち事務職の人たちにも頑張ってもらわないとね」

真島は優しく笑い、目を細めた。

「あ、飛行機の時間は大丈夫ですか?」
「ん? ああ、そろそろ出ないといけないな」

真島はカバンを手にすると、芹花や弁護士たちに軽く挨拶をしながら事務所を出て行こうとしたが、思い出したように振り返った。
忘れ物でもしたのだろうかと戸惑う芹花に、真島は柔らかな視線を向ける。

「さっき所長に聞いたけど、イラスト集の完成が間近なんだろう? 楽しみにしてるよ」
「あ……は、はい。ありがとうございます」

芹花は慌てて頭を下げた。
この半年間、本来の仕事の合間に進めてきたイラスト集の制作も、今日の最終打ち合わせで完了する。
芹花にとっては人生って何が起こるのかわからないと実感する大きな出来事だったが、今でもこれは現実なのかと疑うことも多い。
下げた頭を上げれば真島は既に事務所を後にしていてその姿はどこにもない。
芹花は真島の優しい言葉を思い出しながら、パソコンの電源を入れた。


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