俺様彼氏と不器用なクリスマス
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「はぁ……」
「稲村さん、またため息?」

目の前の席の先輩研究員、近藤さんが苦笑いしながら眼鏡をクイっと持ち上げた。

「あ。ごめんなさい」
「いいよ。どうしたの?研究行き詰まってる?」

優しくて頼りがいがあって、姉御肌の近藤さんは心配そうにあたしを見ていたから、慌てて笑顔を作った。

「あ。いや、そんなことは……」

プライベートな内容なんです、とは口が裂けても言えない。
公私を切り替え出来ないなんて社会人失格だ。

「そうなの?……じゃあ、恋の悩みかな?」
「ははは」

近藤さんが声を潜めて言う。全くもってその通りなのだが、悩みの元凶とも言うべき人物が同じ室内でいるから、特別、肯定も否定もできなかった。

稲村茉咲(いなむら まさき)。
(株)夏目繊維の開発部に所属する研究員だ。

そんなあたしには一応、恋人がいる。
一応、と前置きしたのはその関係が本当に恋人なのか疑問を感じているからだ。
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